かつてCDが音楽市場を席巻した時、消滅の危機に瀕したのがアナログ盤。ところがどっこい、姿を消し始めたのはCDで、レコード人気が再燃している。新作のみならず名盤再発も活性化され、半世紀以上昔に発表されたオリジナル盤やレア盤にいたってはプレミア価格を超えて投資対象にまでなり始めている。その魅力って? それを満喫するには? 宝物に磨きをかけるにはどうすればいいの? という方法までを紹介していこう。
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連載コラム【アナログ・レコードは永遠に不滅です!】
第2回 今さら恥ずかしくて訊けない… レコードってなに? イントロ編
さて、前回の原稿「アナログ・レコードの魅力を再確認」を書き上げて、次は「じゃぁ、実際にレコードを聴くためにどんなハードを買えばいいか」と、話を続けていこうと思っていたのだが、担当者からこんな言葉をいただいた。
「あの〜、LPとかSPやEPってなんですか? よくわからないんですけど」
ありゃぁま、「知らないの?」と反応するのは、アナログ文化にとっぷりと浸かって生きてきた、すでに高齢者と呼ばれる世代なんだろう。よく考えたら、それも仕方がない。統計をチェックしてみると、CDとアナログ・レコードの売り上げが逆転したのは1980年代半ば。1990年代に入るとまだ生き残っていたカセット・テープさえ減少して、90年代後半になるとアナログ・レコードはほぼ死滅したと言っていいほどの売り上げに落ち込んでいる。数年前のこと、もうすぐ30歳になろうとするミュージシャンから「生まれてから、レコードって触ったことがないんです」と言われたこともあるのだが、それも当然だろう。30歳以下の世代がアナログ・レコードが何か、どんな種類があるのかを知らなくても不思議でもなんでもない。
じゃあ、アナログ・レコードとはなにかなんてことを書き始めたら、19世紀半ばまでさかのぼる歴史の授業になっちまう。が、そこまで興味があるようだったら、自分調べてちょうだい。ここでは現実に今、比較的簡単に手に入るアナログ・レコードの基本にスポットを当てて紹介してみよう。
とはいいつつ、まずレコードとはなにか? それは本来「記録」するという意味を示す英語。頭の方にアクセントがつくと名詞で、後ろに来ると動詞にもなる便利な言葉で、前者が「記録された音を再生する媒体」として使われるようになる。それを板という意味を持つディスクと呼ぶのだが、面白いのは音楽に関連するとdiscとなるのに対して、他はdisk。コンピュータ関連の記憶媒体、ハード・ディスク(HDD=Hard Disk Drive)が好例かな。それはさておき、俗に円盤とか、それを省略した盤やお皿って呼ばれ方をすることもあるので想像できると思いますが、現在は塩化ビニールでできた円形の盤(板)が原則となっている。ちなみに、ビニール=Vinylを英語読みして、レコードをヴァイナルと呼ぶ人も多い。この感覚はプレートをお皿に置き換えている感覚に近いね。
盤には表と裏があって、その表面には1本の音溝、英語で言うgrooveが刻まれている。レコードが回転することで、V字峡谷のような溝の左右にある凹凸から生まれる振動をカートリッジの先っちょに付けられているレコード針(英語でStylus)が拾い上げて増幅するというもの。なんでそれを拾って、あんなに素晴らしいサウンドとなって聞こえるのか? しかも、左右のみならず上下にも分かれたそれぞれの楽器の音や声が立体的に聞こえてくるのか? さらには、たいていの場合、ステレオで再生するために2本でペアとなるスピーカーに向かって音を聴いているというのに、ときおり背後からなにかが聞こえてきたりもする摩訶不思議。「なんでやねん」という疑問は当然ですが、それは賞賛されるべき技術のたまものということで、ただただ感謝しながら、楽しむことで良としましょう。
(ちなみに、ここ数年で「背後から音が聞こえてきた」のを体験したのはデヴィッド・ボウイの遺作『ブラックスター』。音質からジャケットにブックレットとすべてがアナログ・レコードの魅力を凝縮していた名盤です)
まず知るべきことはレコードやターンテーブルの回転数(RPM)で、現在は33(正確には33と1/3)と45が基本ってことかしら。Rotation Per Minuteを略したもので、1分間あたりの回転数を示すんですが、回転が速いほど情報量が多くなって、高音質で再現できるんだけど、収録時間が短くなる。基本的には、シングルの主流は45回転直径7インチ(17cm)で、一般的にLP(Long Play)と呼ばれるアルバムには33回転の12インチ(30cm)が使われている。
ただ、その昔、1950年代以前には、現在のレコードの原型となるSP(Standard Play)と呼ばれる直径10インチ(25cm)の盤が存在した。78RPMで、現在の塩化ビニールではなく、分厚く割れやすい素材で作られていて、鉄針で再生することからたやすく劣化してノイズも気になる。回転が速く、4分程度しか記録できなかった。
SPが簡単に割れる… そんな役割を持っていた? 怒りを発散させるために? で、よく知られている映画のワン・シーン、名作『素晴らしき哉、人生』より。
一方で、音がいい、あるいは、分厚い音がなるというので、ロンドンのクラブ・シーンではこれを使ってレトロな音源を回すDJもいる。実を言えば、それで脚光を浴びたのが、そんな昔の音楽をベースにDJもしながら活動しているKitty Daisy & Lewisというバンド。なんと彼らは(現物を持ち合わせていないので、推測だが、現在の塩化ビニール素材で作られていると察する)SP盤のシングルや5枚組のボックスも発表。当然のようにコレクターズ・アイテム化していて、高値で取引されている。
(なお、SPが市場から消えてしばらく後、ターンテーブルは45と33が主流と変化していくんだが、最近ではごく希に78回転も加えられたターンテーブルも存在し、現在使用されているカートリッジでの再生も可能)
SPレコードの時代、そもそも録音方法の違いにもよるのだが、ほとんどの場合、ソースとなるマスター・テープが存在していないこともあり、SP盤そのものがマスター素材として珍重されている。かつて「オリジナル盤による」といったキャッチ・コピーでSP時代の音源がLPで再発されたことも多々あったのだが、それはSPレコードから音源をリップして、レコードを制作したという意味を含んでいる。
(補足ですが、10インチという大きさが珍しいというので、今でもごく希にこのサイズのシングルやアルバムが発売されることもあります)
さて、この次はコレクター垂涎のレア・アイテムも見せちゃおう、シングル編ですぞ。
連載コラム【アナログ・レコードは永遠に不滅です!】は毎月下旬の更新です。
次回もお楽しみに!
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アナログ・レコードは永遠に不滅です!(3)今さら訊けない…「レコードってなに?」シングル編 - シリーズ一覧はこちら
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