この記事がオススメな方
- レコード制作を検討しているインディーズアーティスト:自主制作盤を作りたいアーティストは、カッティング・メッキ・プレスの基礎工程を正しく理解する必要があります。制作費見積もりや工程期間を把握するうえでも、本記事の内容は直接役立ちます。
- レコードショップ運営者・バイヤー:店舗独自企画で「オリジナル盤」や「コンピレーション盤」を制作するケースが増えており、制作工程を理解することで外部工場とのコミュニケーションが改善します。品質基準や不良項目の把握にも適しています。
- 音響工学・録音技術を学ぶ学生:大学・専門学校で録音技術や音響工学を学ぶ学生にとって、アナログレコード制作工程は音声物理・素材特性・機械工程など複数領域の基礎になります。ラッカー盤の特性や45/45方式などは教科書レベルで必要とされます。
- オーディオ愛好家・アナログファン:音質の違いを理解したいオーディオマニア層は、制作工程(カッティング技術・スタンパー精度・プレス品質)が音の違いに直結することを認識しています。この記事は工程理解の基礎資料として適しています。
- 音楽・メディア関連のライター・編集者:制作工程に関する専門情報は取材記事やレビュー記事で引用されることが多く、正確な知識が必要です。本記事の内容は、制作現場や技術に関する記事を書く際のベース情報として有効です。
本文概要
1. カッティング工程の概要
- 音源をラッカー盤に刻む最初の工程です。カッティングレースと呼ばれる専用機材を使い、カッターヘッドの振動で音溝を形成します。商業レコードで一般的な「45/45方式」によってステレオ音源が物理的に刻まれます。ラッカー盤は保存性が低いため、刻印後は速やかに次工程へ移送します。
2. メッキ工程(電鋳)の概要
- カットされたラッカー盤に銀メッキ処理を施し、ニッケル電鋳によって音溝を反転させた金属原盤「メタルマスター」を作成します。さらにマザー盤→スタンパーへと金属を複製します。電鋳では温度・電流・pHなどを厳密に管理し、不良が発生しないよう工業規格に基づいて処理します。
3. スタンパー加工の概要
- プレス機に取り付けるため、スタンパーの外周カットやセンターホール加工、裏面研磨などを行います。偏心や歪みを防ぐため、高精度なセンタリングが必要です。スタンパーは高温・高圧のプレスに耐えられるよう平面度や真円度を検査したうえで使用されます。
4. プレス成形の概要
- 加熱したPVCビスケットを上下のスタンパーで圧縮し、音溝形状を転写してレコードを成形します。プレス温度は約160〜180℃で管理されます。レーベル紙は耐熱インキで印刷され、含水率が適正である必要があります。成形後は冷却ののちトリミングされ、規格サイズに仕上げられます。
5. 検品・試聴・封入工程の概要
- プレス後のレコードを外観検査・重量測定・レーベル位置確認・ワープ(歪み)などの基準で検品します。ロットごとに抜き取り試聴を行い、音質上の問題を確認します。合格したものはスリーブとジャケットへ封入し、シュリンク包装またはOPP包装を施して出荷されます。
カッティング工程:音源をラッカー盤に刻む最初のプロセス
レコード制作の最初の工程は、音源をラッカー盤に物理的に刻み込む「カッティング工程」です。カッティングにはカッティングレースと呼ばれる専用機材が使用され、カッターヘッドの振動によって溝(グルーヴ)が形成されます。ラッカー盤はアルミ板の上にラッカー層が塗布された構造で、柔らかく、音溝を正確に刻める素材であることが特徴です。
カッティングでは、ラッカー盤を回転させながらカッターヘッドが横方向に信号を刻む「横振幅方式(Lateral Cut)」が使われています。ステレオレコードの場合は、左右の音成分を45度に傾けて刻む「45/45方式」が一般的です。この方式は1950年代後半にWestrex社によって確立された国際的に標準化された方式で、現在も商業プレスの基盤となっています。
カッティング後のラッカー盤は表面の変質や硬化を避ける必要があるため、速やかにメッキ工程へ移送されます。ラッカー盤は保存性が低いため、時間管理が品質に直結する重要な工程です。
メッキ工程:金属マスターを作るための電鋳プロセス
カッティングされたラッカー盤は次に「電鋳(Electroforming)」と呼ばれるメッキ工程に移ります。表面に銀メッキ(シルバリング)を施した後、ニッケルを電気的に析出させ、音溝の反転形状を持つ金属原盤「メタルマスター(父盤)」を作成します。この工程は、ラッカー盤の音溝を精密に金属へ転写するため、レコード製造における要となるプロセスです。
1.メッキ工程の一般的な流れは以下の通りです。
2.ラッカー盤の洗浄
3.導電処理としての銀メッキ(シルバリング)
4.ニッケル電鋳による金属層形成
5.ニッケル層の剥離
メタルマスターからは再度電鋳を行い「マザー盤(母盤)」を作り、さらにマザー盤から「スタンパー(子盤)」を作成します。スタンパーはプレス成形の際の金型として使用され、一般的には数百〜数千枚の量産に耐える構造になっています。
電鋳工程では、温度・電流密度・pHといった条件の管理が必須で、適切に管理されない場合はピンホールや表面粗れなどの不良が発生します。そのため、工業的に規格化されたプロセスが世界的に採用されています。
スタンパー加工:プレス機に取り付けるための精密調整工程
完成したスタンパーは、そのままではプレス機に取り付けられないため、外周カット、センターホール加工、裏面研磨などの精密な調整作業を行います。スタンパーの中心位置がわずかにズレただけでも回転時の偏心が発生し、音質に影響するため、センタリングは高い精度が求められる工程です。
スタンパー加工の主な作業は以下です。
・外周のトリミング加工
・センターピン用のセンターホール打ち抜き
・プレス機との密着性を高める裏面研磨
・スタンパー表面の微細ゴミ・異物の除去
また、スタンパーは高温・高圧のプレス環境で使用されるため、耐久性と熱伝導性が求められます。多くの工場では、スタンパーの平面度や外周の真円度を光学測定器や治具を使って検査し、プレス工程での圧力均一性を保証しています。
プレス成形:PVCを加熱・圧縮し音溝を転写する主要工程
プレス工程では、PVC(ポリ塩化ビニル)素材を“ビスケット”と呼ばれる丸形に加熱し、上下に配置したスタンパーで圧縮してレコードを形成します。プレス温度は一般的に160〜180℃に管理され、数十秒の圧力保持の後、冷却して形状を安定させます。
プレス工程の一般的な手順は次の通りです。
1.加熱済みPVCビスケットとA/B面のレーベル紙をプレス機にセットする
2.上下のスタンパーで圧縮し、音溝形状をPVCに転写する
3.冷却水を循環させてレコードを急冷する
4.外周をトリミングし、規格サイズ(12インチなど)に仕上げる
レーベル紙はプレスと同時に熱圧着されるため、印刷は耐熱インキで行われ、含水率も適正範囲(一般に低湿度)に管理される必要があります。含水率が高いレーベルはプレス時に気泡(ブリスター)を生じやすいため、乾燥工程を設ける工場が多数あります。
現在の商業レコード工場では、自動プレス機(例:WarmTone、Pheenix Alphaなど)の導入が進んでおり、安定した成形品質と生産速度が確保されています。
検品・試聴・ジャケット封入:品質保証と出荷の最終工程
プレスされたレコードは、外観検査・重量測定・レーベル位置確認・歪み(ワープ)の有無など、工場の品質管理基準に基づいて検品されます。外観検査では、ピンホール、スクラッチ、異物混入、レーベルのズレなどの不良がチェックされます。
量産ロットごとに抜き取りでの試聴確認も行われます。これは、歪み、プチノイズ、トラッキング不良など音質上の問題がないかを確認するためで、国内外のプレス工場で一般的に採用されています。
検品を通過したレコードは、インナースリーブへ封入され、ジャケットに収められます。その後、シュリンク包装またはOPP包装を施し、物流工程へ回されます。ジャケット印刷はオフセット印刷やUV印刷など、確立された印刷技術が使用されています。
まとめ
レコードはまず、音源をラッカー盤に物理的に刻むカッティング工程で制作が始まり、その後、銀メッキとニッケル電鋳によって音溝の反転形状を持つ金属原盤(メタルマスター・マザー盤・スタンパー)を順に作成します。完成したスタンパーは外周カットやセンターホール加工などの精密調整を行ったうえでプレス機に取り付けられ、加熱したPVCビスケットを160〜180℃で圧縮し、音溝を転写してレコードを成形します。成形後は冷却と外周トリミングを経て規格サイズに仕上げられ、外観検査・重量測定・レーベル位置確認・抜き取り試聴などの検品工程を通過した後、スリーブとジャケットに封入され、包装されて出荷されます。
ライター紹介:鈴木 玲奈 (Reina Suzuki)
プロフィール:
音楽ジャーナリストおよびエデュケーター。
ジャズを中心に幅広い音楽ジャンルに精通し、初心者から音楽愛好家まで幅広く音楽の魅力を届ける。
大学で音楽学を専攻し、音楽理論と歴史について学ぶ。卒業後は、音楽雑誌のライターとしてキャリアをスタートし、音楽の多様性とその影響についての執筆を続けている。
音楽に対する深い愛情と情熱を持ち、特にジャズの豊かな歴史とその進化に魅了され、音楽の素晴らしさをより多くの人々に伝え、その魅力を共有することが目標。
専門分野:
- ジャズおよびその他の音楽ジャンルの歴史と文化
- 音楽理論とパフォーマンスの解説
- 音楽教育および教材の作成
- アーティストのインタビューとレビュー